目下ZONEに侵攻中

ここ三日くらい信じられない勢いでZONEに溺死寸前。
今の今まで興味の「きょ」の字も示さなかった俺なのに、ニーする気力も湧きはしなかったというのに…どうしたんだ?俺
事の起こりは…わからない…ただ今回の新曲(って言ってもリリースは6月だったわけだが)が大きく関与している事は否定のしようがない事実であろう。
過去にZONEの楽曲を真剣に聴き込んだ事は無いに等しい
いや、一度…ただ一度だけただ一度の夏だけは彼女らの歌を聴き続け、それこそCDが擦り切れんばかりの勢いで聴きまくった時期があった


今を遡る事3年前、2001年の夏はZONEの夏だったような気がしないでもない
あの頃俺はバイトをしていた、現在はしていない。そのバイトというのが所謂「ポスティング」という類の仕事で、毎週金曜と土曜、時にはその他の曜日まで遠路遥々片道90分かけて東京は東の外れ、江戸川区までの通勤を生業としていた
仕事は概ね朝の9時過ぎから始まり各人のペースに合わせて配れる枚数をそれぞれのペースでこなしていく
なので仕事の速い人間は500枚配るのに1時間、また反対に遅ければ3時間を要したりもする
俺はどちらかというと仕事の速さ、仕事量の多さに関しては自信のある方だったので一日2000枚をアベレージで働いていた
とは言えそこは江戸川、1ヘクタールの面積に対する住居の数は新宿、渋谷区のそれと比べて格段に少ない。家屋と家屋の間が20秒程度歩かねばならない事もしばしば
天候だっていつも良いとは限らない。ときには雨が降ったり風が吹いたり…かてて加えて夏の温度、湿度…肉体労働と呼んでもそう間違いではない内容だったように思う
その日の俺はいつもよりも仕事がはかどらず、頭を垂れ、項垂れながらひたすらにチラシを配って歩いていた
前を見るな、足元と手元それだけを見つめて余りに緩やかな逓減に身を委ねていた
例によって通り雨に打たれ、そしてその後にやって来る激しい熱に襲われ俺の体は衰弱もいいとこ、精神的にも肉体的にももうとっくに限界は突破してしまっていた
そんな中、工業団地に迷い込む
「あぁ、ここならば戸数が多いのでひといきに配ってしまえるぞ」
喜びは束の間、その団地は無限回廊とも思えるほどの巨大要塞であったのだ
光の差さない暗い廊下、複雑に入り組んだ迷路のような構造、下っても下っても地上に着かない階段。
救いはどこにもない。持てる物はウォークマンそれだけ
74分のMDを数時間に渡ってリピートする、そこにはもう聴き慣れて聞き飽きたメロディが延々と繰り返されるだけ…既にもう救いだとか癒しだとかそういった効能はなかったかもしれないな
しかしその曲は違った
同じ仕事同じ風景同じ音楽、であるはずの俺の景色が、変わった
太陽が橙色の絵の具を視界いっぱいに撒き散らしながらその姿を山の向こうへ消そうとしている、まさにそんな瞬間
「手紙かくよ 電話もするよ 忘れないでね 僕の事を」
…チラシが濡れている
おかしいな、もう雨は止んだはずなのに
初めてだった。歌を聴いて涙を流したのは…後にも先にもそれっきりだった。


そして3年の月日が流れ、今年の夏ZONEは再び俺の心を掻き立てる