ガス屋S

男は一度外に出れば七人の敵がいるという。思えば俺も並々ならぬ修羅の道を歩んできたものよ…以下回想
中学時代…他校のヤンキーとよくバトったっけか。19xx.2.29…「血で血が潤う閏年の決闘」と未だ関西地方では伝説化している「あの」一夜は忘れようにも忘れらんねぇ…元気かな、ヨシダ。半身不随にしちゃったけど。
高校時代…初めて買った単車で事故って死んだスエツグ…オマエのsmileは永久(とわ)に俺の胸の中で生き続けてるぜキョーダイ。
社会人時代…鉄工所で働く俺はいつも孤独だった…「ゾク上がり」って事で世間の目も風も冷たさ極まるモンだったよ…そんな中ただ一人、一度だけ無言で俺に缶コーヒーを差し入れてくれた上司のペニスダさん…あんなに温かいコーヒーは産まれて初めて飲んだよ…ってこれメッコーラやんけ〜!!


外に出れば、なんて言うが時には室内にまで入り込んでくる不躾な輩もいたりなんかするもんだ。ENEMYの名は「堺」、職業「ガス屋」。集金を趣味とし専ら焼きうどんとかつおぶしを愛食している。その皮膚は固く、人情という最大の武器をもいとも容易く跳ね返す血も涙も通いはしない、どちらかと言えばオイルで体を動かせているような無愛想無表情の最高峰を地でいくアンドロイ。そいつが今日もやってきた。
安眠を引き裂くインターホンの連打、スクリーム。かつてこの国には高橋名人という子供達に絶大な人気を誇る英雄がいたものだがそれに勝るとも劣らない程の高速連打でインターホンを名古屋打ち。「わぁぁ、やめてくれえ」と相手が許しを請うまで名古屋打ち。余りにけたたましい目覚し時計に流石の猿飛も怒り心頭、どんどんと足踏み勇ましく玄関へ向かわざるを得ない(この時点で主導権を握られてしまっている。敗色濃厚。)「なんスか」とチェーンの隙間から外を見てみればそこには誰もいやしない。「誰スか〜」「いないんスか〜」と呼びかける俺。すると一呼吸の後死角方向からおぞましい、呻きなのか言葉なのか判断に困るような低い声で「うここぉん…うここほこん」と鳴く。鳥肌。ぞわっとするような不吉な音は次第に固形化する。「あのこぅ…ガス…代…うここ…止めますよ、払わなきゃうこここぅ」ひょいと顔を覗かせる悪魔。何だ、何だこのバーター取引は!余りに不本意だ!不名誉な二者択一である!実に断りたい!!しかもそのヤツの顔が……もう…チャンク!!!硫酸をぶっかけられた毛唐そのものだ。不謹慎もクソも無いよ、あれを野に放っている日本政府もアレを飼っている東京ガスもどうかしてるよ、狂ってるよ!!!桃太郎の鬼って多分こんなヤツだ。「今持ち合わせないんですよ、明日エネスタに行きますからそれで手をうっていただけないでしょうか?」「じゃあ止めますね」…なんだこのやりとり。人語を解さないのかあのケロイドは。ますますモンスターじみてるじゃねぇか。最後には俺が折れると踏んでるんだろう…そうはイカのキンカクシ、ZETTAI払うもんか払ってやるもんか!!
バタン、彼が去った後の俺の手には「7089円」と数字の書かれた領収書が握らされていた。う〜む、妖術。


これはたもっさんの弁なのだがやはりガスにしろ電気にしろ水道にしろ、一社からしか供給を受ける事ができないというのはおかしいと思うぜ。郵政民営化もいいんだけどさ、もっと自由競争社会にしろよガス・水道・電気もよぉ。や、でも電気代の集金の方なんかはね、本当に気持ちの良い方でいつも二、三分立ち話をさせてしまうような有様なんですよ。万年遅延状態な俺にも嫌な顔一つせず、今度はいよいよお茶と羊羹でも出そうかしらと真剣に考えている。